• テキストサイズ

お隣さんはブラック本丸

第3章 お隣さん 男士視点


 ずんっと重たい空気が嫌なのか誰も喋らない。楽しいはずの食事も、もう三年ほど大人しい。誰がどんな話をするのか、彼はどんな性格なのか未だわからない刀剣が多くいる。
 食べ終えた食器を厨に片して外に出る。庭の花は咲かない。咲くことができない。
 庭が色づくのは景趣を変えた時だけだ。だが、この本丸の審神者が景趣を変えることは滅多にしない。そもそも本丸を留守にするのが多すぎるのだ。審神者としての、戦場に立つ者としての自覚がないのだ。

「はぁ……」

 重たい息を吐き出した。吐き出さねばどうにかなってしまいそうだった。庭に鎮座する巨大な桜の木の近くまで行く。
 もう何年も桜が咲いたところを見ていない。桜は美しいのに。本丸の外の買い出しの時にしか見ていない。彼らにも見せてあげたいのに。
 顔を俯かせて思考を巡らせながら巨大な桜の木の近くまで辿り着く。
 ふと足元の影が桃色に美しく煌めいた。思わず桜を見上げれば、咲かない桜が、咲けない桜が桃色に輝きながら咲いていた。

「な、にが……」
「……石切丸」

 唖然と見上げていれば不意にかけられた声。聞きなれない子どもの声に視線を下に移せば、桜の木の根元で立っているお隣の娘さんがいた。
 「きみは……」と呟くよりも先に彼女はぼんやりと私を見つめて。私に近づいた。
 同時に力が抜けるように膝から崩れ落ちた。いつぞやの三日月相手のように、何かをとるみたいに無意識に手を動かして。そして私の頭に触れた。
 じんわりと伝わる熱はとても優しくて__

「きれい」

 いつの時か、つい最近。私の瞳を見て同じように呟いたのを覚えている。彼女の目を無意識に見つめたら、彼女は私の頬を撫でた。
 幼子のはずなのに、私の目に映る彼女は、誰よりも大人びていて。成人した女性のように。
 ふわりと風が吹いた。桜の花が舞う中、彼女は優しく微笑んだ。

「優しいね。お前は」

 触れたいと手を伸ばした所で、彼女はゆるりと私の側から離れた。触れられない距離に戻って、また桜を見つめて。それから私の横を通って行ってしまった。
 慌てるように振り向けば、そこには"彼"がいた。彼があの娘を優しく抱き上げて去っていく。
 何も出来ずに見つめていれば、桜は元の枯れ木に戻っていた。
 あぁ羨ましい……私もあの娘が欲しい__
/ 57ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp