第16章 初恋 中編【伊黒小芭内】
しかしそんな状況にも実弥は挫けない。
「じゃあ俺も貰うぞォ…」と、小芭内の弁当箱から、卵焼きをあるだけごっそりと箸で掴んで、口に中に放り込む。
(よしっ!)
これならば、弁当の足りなくなった小芭内が陽華の弁当から貰う率が高くなるはず!
そう計算して、僅かにニヤリと微笑む。しかし……、
「不死川、腹を空かしてるのか?なら、もっと食え。俺は知っての通り、少食だからな。なんなら三日くらい、食わなくて平気だ。」
(だあぁぁぁーーー、お前なァ!!)
実弥が親友の鈍感さ、空気の読めなさに嘆く。しかしその無念を最近メンタルの強くなった陽華が晴らしてくれた。
「駄目ですよっ、伊黒先輩っ!食事はしっかりと取らなくちゃ!
食は美と健康の源っ、きちんとした栄養とバランスの取れた食事、それが心身共に健康で丈夫な身体を作るんです!特に卵に含まれるタンパク質は、人の身体を構成する上で必要不可欠な栄養素!それに男性の1日の摂取カロリーは……」
突然始まった陽華の熱い答弁に、小芭内と実弥が目が点となる。
「何なんだお前、新手の宗教の勧誘か何かか?」
「つーか、栄養やカロリーにやたらうるせェーな。」
口々に突っ込まれ、少し言い過ぎたか…と、陽華の顔が真っ赤に染まる。
「あっ…いや…、私…昔……その、カロリー計算や栄養素にハマってる時期が……ありまして……」
先程の雄弁さとは違い、突然の歯切れの悪さ。口籠る陽華に実弥がニヤリと微笑む。
「あぁ、なるほどなァ。」
意味深な笑顔を浮かべて納得する実弥に、陽華の顔が引き攣る。
「そ、そんなことよりっ!!今は伊黒先輩の身体の方が大事です!はい、私のお弁当も食べて下さいっ!」
陽華が自分の弁当箱を小芭内に向かって、勢いよく突き出した。