第16章 初恋　中編【伊黒小芭内】

すると、中からは綺麗に計算されたように配置された、まるで見本のようなお弁当が出てきた。

「えっ、綺麗なお弁当！……先輩のお母様が作られたんですか？」

「そうだ。」

「お前んとこの弁当、いっつもこんなんだよなァ？俺も毎日、弟達の弁当作ってっけど、ぶち込むだけだからな。お前んとこの母ちゃん、尊敬すんわ。」

「本当ですっ！お母様の愛情たっぷりですね？」

「違う。これはそんなんじゃない。」

小芭内はさらに機嫌の悪い顔を浮かべて、目を下に向けた。

(あの女が俺に対して愛情？そんなわけないだろ。アイツは何よりも世間体を気にする女なんだ。これは誰よりも素敵な母を演じるための小道具に過ぎない。)

そんな事を思って、チッと小さく舌打ちする。そんな小芭内の隣で陽華は一人ショック受けていた。

(こんな綺麗なお弁当作ってくれるお母様がいらっしゃるなんて……、こんなんじゃ私が作ったのなんて、ゴミ同然じゃない？？)

自分のお弁当を覗き込んで、顔が真っ赤になる。

本当は昨日の放課後、商店街で偶然合った実弥に今日のお昼に誘って貰い、早起きして作ったというのに。

急にしょんぼりとする陽華。それに気付くことなく、小芭内は実弥の弁当を覗き込んだ。

「俺はこんな見た目だけの弁当よりも、不死川が作った卵焼きの方が好きだがな。」

そう言って、実弥の弁当から卵焼きをヒョイっと摘むと、そのままマスクをズラして口の中に運んだ。

「あっ…お前っ……」

その姿に実弥が何かを言いかけ、留まる。

(伊黒ォ、そこは俺の弁当じゃねェーだろがァっ！？)

もぐもぐと「やはり、美味い。」と頷く小芭内と、その隣で浮かない顔で自分の弁当を見つめる陽華を交互に見やって、実弥はガクッと項垂れる。