第14章 初恋の君と (角名倫太郎)
「ちゃん」
『倫太郎くん』
名前で呼び合うようになったのは1年生の時の合宿中だった。角名くんから直々に許可取りがあったのを今も覚えてる。
「さんって名前可愛いよね。」
『え?』
「、でしょ?」
『うん、そうだよ』
「ちゃんって呼んでいー?」
『もちろんだよっ』
胸がきゅっとなって嬉しかった。名前を呼ばれただけでこんな気持ちになるんだと初めての感覚に戸惑った。でも角名くんのことを好きだと気づけたのもこのときだった。
「ちゃんは俺の名前知ってる?」
『うん、倫太郎くんでしょ?』
「おーなんか新鮮。俺はこれから名前で呼ぶからさ、ちゃんも俺の事名前で呼んでくれたら嬉しい…かも。」
『倫太郎くん?』
「ふはっ、なぁにちゃん」
これは合宿の小休憩中のお話。2人並んで体育館の日陰に腰をおろして触れるか触れないかくらいの距離感にいた角名くんが満足そうに微笑むからまた心臓がきゅん、と締め付けられた。
「あ、角名たちここにいたの。もう始まるよ」
「ん、今行くわ」
体育館から顔を覗かせたチームメイトに呼ばれて、なんだかふわふわとしていた頭が現実に引き戻されていくみたいな感覚。
「戻ろっか。じゃあ、はいっ」
先に立ち上がった角名くんが私に向かって手を伸ばす。
「引っ張ってあげるから掴まって」
『あ、うんっ』
その手に掴まるとぐいっと引き上げられて勢いそのまま角名くんにダイブしてしまった。
『んぐ…っご、ごめんね!』
「俺こそ強く引きすぎちゃったね、ごめん。痛くなかった?」
『私は全然…!』
「良かった。」
手を引かれたまま体育館に戻って、だんだん大きくなる心臓の音が角名くんに聞こえちゃうんじゃないかって思うほど。
「ちゃんの手小さいね」
『そうかな?』
「うん。ほら…ね?小さくて可愛い」
『す、倫太郎くんの手が大きいんだよきっと』
「そ? あ、じゃあ俺コート戻るね。流れ弾気をつけて」
私の指先をきゅっと軽く握った角名くんは何事も無かったようにコートへ戻って行った。きっとドキドキしてるのは私だけ。誰にも気づかれちゃいけない。私がするべきことは "支える" それだけ。