第1章 出会いのお話
「その、なにもかも分かってますって顔……気に入らない」
「手当てをしよう。
お前にも大切な家族がいるんだろう」
「あなたには関係な……」
その時、にわかに地面に口寄せの陣が浮かび上がった。
那霧は察したようにイタチを引き寄せ、耳元で囁く。
「僕はあなたをいつでも殺せる。
いつ死ぬか分からない不安に怯えながら生きるがいい」
口角を歪めて笑いながら、イタチを突き飛ばす。
攻撃的なくせに寂しそうな瞳だ。
思わず手を差し伸べるが、那霧は動かない。
「それから、他人の目玉なんていりませんよ。気持ち悪い」
「おい……」
最初から取引をする気さえなかったというのか。
なんて天邪鬼な男だろう。
「またお会いしましょう」
那霧は踏ん切りがついたとばかりに、少しだけ笑った。
直後、身体が浮遊感に襲われる。
イタチはどうやら、また死に損なったらしい。