満月の夜に【鬼滅の刃 煉獄杏寿郎 宇髄天元 R18】
第38章 血鬼術を解いてよ宇髄さん3※
◇
ようやくこちらに帰ってきたというのに、急な雨で足止めを食らった。今回の任務はやや遠出で、その上隠れるのが上手い鬼ときたもんだ。任務完了まで思っていた以上の時間が過ぎて、宇髄は深くため息を吐く。
疲れた身体を早急に休めたい。
身体が悲鳴をあげている。
そんなときにふと浮かんでくるのは波奈の屈託ない笑顔で、その笑顔さえ見れれば疲れも吹き飛ぶのだが。
波奈は無事だろうか…。
身体を重ね合わせた最中に、縋るように腕を掴まれた。
赤紫色のその痕跡と爪痕はもう消えかかっている。
まだ波奈の血鬼術は完全には解けていないので、不安が付き纏う。
このまま蝶屋敷に出向いて、波奈の様子を見にいきたい。
それから、1日でも早く血鬼術を解いてやって、思いの丈を伝えたい。
焦る気持ちがふつふつと湧いてきて騒がしい。
一旦冷静になろうと、近くの藤の家紋の屋敷へ向かう。
「…や、やっぱりむりです…っごめんなさい!」
「え?!ちょ…と、待ってよ」
「ほんとにごめんなさい!離してください…っ」
恋心を晒せすぎて、とうとう幻聴まで聴こえたかと思ったが、紛れもなく現実の波奈の声だった。
急いで波奈の声の方へ向かうと、何やら困っている様子だ。
隊服を見に纏った男が、波奈の腕を掴んでいる。
カッと身体が一瞬のうちに怒りが湧き上がり、2人の間に立ち男の腕を掴み上げて離させた。
「宇髄さん…っ?!」
「え!?音柱?!」
「何やってんだお前」
ジロリとその男を睨みつけて、男の腕を放り投げ波奈を囲うようにしてその男を牽制する。
この子に一体何をしようとしたんだ。
藤の家紋の家の前で。
「宇髄さん、あの、」
「俺は血鬼術を解いてやろうと…、」
「…は?」
血鬼術を解く、だ?
その男は確かにそう言った。
波奈を見やると泣きそうな顔をしている。
「…こいつの血鬼術は俺が解くことになってんだよ」
「……」
「…癸の隊士が解けるもんじゃねえと思うけど」
「…っ…も、申し訳ありません…」
「ほら行くぞ!」
「ぅええ?」
くるりとまわって、波奈を藤の家紋の屋敷へと放り込んだ。
怒りの感情のまま、主人に部屋を準備させ、ずかずかと波奈を部屋に放り投げる。