第20章 彼女の能力
「___なぁ、お前は、海賊王って、どう思う」
これまで、何度も繰り返し、何度もその事実に打ちのめされた質問。ドクリ、ドクリと心臓が嫌な音を立てる。
「・・・・・・さぁ。海賊とは縁のない人生だったから。だけど、海賊王ゴール・D・ロジャーの名は、良くも悪くも、世界中の誰もが知ってる。そんな人になりたいなんて・・・・エースの弟は、茨の道を進むんだね」
「・・・・・」
ゴール・・・・D?
『ゴール・D・ロジャー』そう言ったユキに、エースは違和感を抱く。
「・・・・・エース?」
黙りこくるエースに、今度はユキがエースの顔を覗き見る。エースはもう、ユキを見てはいなかった。暗い海を見つめるエースからは、いつもある目の光が抜け落ちていた。
「・・・・・なら、お前は、もし海賊王に子供がいたら・・・どうする」
「・・・ゴール・D・ロジャーに、子供?」
質問の意図が読み取れず、答えかねるユキ。エースはまた本名を言うユキに、言い知れぬ不信感が膨れ上がる。
そんなエースをよそに、ユキは考え込んだ。
「もし、子供がいたら・・・・・・育ててみたい」
「はぁ?」
その答えに緊張していたエースから、心の底から呆れた声が出た。
「・・・だって、きっと、生まれたことを否定され続ける。その子がしたことじゃないのに、海賊のせいで大切な人を、ものを失った人たちはきっと、その子を海賊王に仕立て上げる。人間は弱いから。何かに当たるしかない人たちは、行き場のない気持ちをその子に向けるんだろうね。
・・・私は、そんな声を、否定ではなくて、受け止められる、強い子に育てたい。いつか、『海賊王の子』じゃなく、その子の『名前』を世界中の人が知ってる、そんな存在に、し__っ?」
ユキは海を見つめながら自身の想いを綴った。すると、力強く腕を引かれ、暖かいものに包まれた。一瞬の後、先ほどまで止んでいた雨が、また降り出す。
「・・・・エース?」
ギュウ、とこれまで受けたことのないほどのあつい抱擁にユキは戸惑う。ユキの肩に顔をうずくめるエースは、今どんな表情をしているか分からず、抜け出すこともできない。
「・・・・・・悪ぃ。しばらく、このまま・・・・」
すり、と肩口でそう呟くエースに、覇気はない。