【MARVEL】This is my selfishness
第5章 5th
2連休を終え、仕事の前に軽く腹拵えをしてウェイトレス服に着替える。
最近肌寒くなってきたから厚めのパーカーを着て玄関を出た。
「今からか?」
『うん』
玄関を出るとちょうど帰ってきたバッキーと出くわした。
この間の夜のお茶会…もしくは夜空鑑賞会をした翌日(あの時既に日付は変わっていたけど)、バッキーはなんと朝早くに仕事の呼び出しが掛かったらしく、火曜日は帰ってこなかったみたいだった。
『もしかして今帰って来たの?』
「ああ。ちょっと遠出だったからな」
そういうバッキーの服は少し汚れて擦れていた。
頬にも少し擦れた痕がある。
擦れた服はいつもの格好とは少し違って、まるで戦闘服のように見えた。
わたしの視線に気付いたのか、バッキーは「着替えなきゃな」と自分の姿を見直す。
『…バッキーのお仕事って危ないお仕事?』
「…あー…そうだな…なんと言うか…」
バツが悪そうに言葉を詰まらせる。
そんなはっきり言えないお仕事なのかな…。
『…気をつけてね?』
きっとはっきり言えない理由があるのだろう。それを根掘り葉掘り聞くのも悪い気がして、何とかその言葉を搾り出した。それ以外何と言えば良いかわたしには検討がつかなかった。
ただそう言うとバッキーは眉尻も目尻も下げるように「ありがとう」と言って笑った。
「後で店に行ってもいいか?」
『え』
「駄目?」
控えめに言っているはずなのに断れないというか、断っては申し訳ないような何とも言えない表情をされた。
自分よりも背の高い人から顔色を伺うように首を傾げられるのってこんな気持ちになるのか…。まるで捨て猫に「ニャ〜オ」と鳴かれたような気持ち。
『良いけど…疲れてないの?』
「向こうで仮眠したし、君は2時まで働いているんだろ?それならまだ時間もあるから少しゆっくりしてから行く」
なるほど確かに今からすぐ来る訳じゃなく、時間を空けるんであればシャワーも浴びれるし仮眠の続きも取れる。
『じゃあ今日はヘマしないようにいつも以上に気をつけなきゃ。無理はしないでね』
「ああ。張り切りすぎて俺が行くまでにやらかさないようにな」
少し意地悪そうに笑ってバッキーは部屋に入って行った。