第4章 第四章音楽の申し子
ツクモプロダクションの支援を受け独立した八乙女プロダクションは成功した芸能界と言えるだろう。
今では大手芸能事務所としても有名だった。
その裏で大きなしがらみもあっただろうが私が聞かされたのはもっと深いモノだった。
「親父には他に好きな人がいた。でもその人は他の男と結婚して、親父はお袋と一緒になったんだ…今でもその人の面影ばかり追ってお袋の事を顧みようとしない。俺を引き取ったのだって仕えるからだ」
「それは…まぁなんというか」
「今でも親父を愛しているお袋が可哀想だ」
可哀想ね?
その言葉は自分の母親を傷つけると解っているのか。
「貴方のお母様はそんなに不幸な人ですか」
「は?」
「毎日息子に自分は不幸だと嘆くような弱い人ですか」
「なっ…んなわけねぇだろ!お袋はそんな弱い女じゃねぇ!」
だったら何故そんな風に言うのか。
「それは貴方の驕りです」
「なっ…」
「幸せも不幸も、貴方が決める事じゃない。二人は本当に愛情がなく一緒になったんですか…少なくとも八乙女社長は性格が悪く、俺様で、男としてアウトですが」
「おい!」
あの人は仕方ないからという理由で他の女性と結婚するとは思えない。
「あの人は何の感情もない女性と子を成せるほど器用ではありません。ご自分のお母様をも侮辱する行為をまですべきではありません」
「侮辱だと!」
「そうです。社長を愛していたお母様の気持ちまで貴方は否定した…貴方は子供の視線でしか知らないのではありませんか?」
私は結婚はしていない。
でも、八乙女さんよりは解る事はある。
「子供と言えど夫婦関係は解らない者です。仲良く見えても建前の関係、不仲に見えても深い部分では繋がっている関係もある…愛情は一つじゃありません」
少なくとも八乙女さんのお母様は社長を愛している。
今でも大切に思っているのではないかと思う。
「過去に愛した人の思いを捨てられない。捨てることができない…捨てられたら楽でしょうね」
「そんなの勝手だ」
そう、すごく勝手な感情だ。
「そんな勝手な男に惚れてしまったのが貴方にお母様、情が深かったのでしょう」
「ああ…」
置いていかれた子供のような表情をする八乙女さんに居た堪れない気持ちになった。