第1章 現実世界からの逃げ方
___部屋の隅、少年がおとなしく座っている。
「何、その目は」
「...」
「お前も私が悪いっていいたいの?いいたいんでしょ!!」
___青筋を浮かべた女が、少年の髪をつかみ、床へたたきつけるように押し飛ばした。
「ごめんなさい...」
___少年は涙を浮かべることもなく、何も映さない瞳で女を見上げた。
___薄暗いトイレ、少年はびしょ濡れで立っている。
「お前、いつになったら死んでくれるの?」
「みんな迷惑してるんだよね。学校に来るのやめてくんね?」
___体の震えを隠すように少年はうつむく。
「ごめん...なさい」
___小さくつぶやかれたその言葉は、少年を縛る。
...俺が死ねば、誰も嫌な思いをしない?
...俺はここにいちゃ、生きてちゃいけない?
考えれば考えるほど、みんなのいうことが正しいように思えた。
居場所がないなら、いたらいけないのなら...
少年の心はとっくに無くなっていて、傷だらけの体をだいたまま、屋上から飛び降りる。
校舎の中、生徒の視線がやけにうるさかった。
__かわいそうに。
___私が君の命を拾ってあげよう。
____君を、愛してあげよう。