第3章 第二章新しい星の誕生
【万理side】
俺は何も知らなかった。
何時も笑顔の奏音君がそんなつらい過去を持っていたなんて。
「万理君、君は彼の気持ちが誰よりも解ると思うんだ」
「そんなこと…」
「少なくとも奏音君にとって君は特別なんだ」
俺が特別?
そんなはずありません社長。
俺は…
「彼は長い間ピアノを弾かなかった。けれど君には弾いていただろ?」
「それは…」
「彼の好意は解りやすいんだ。本当に解りやすいんだ。僕がお願いしてもピアノは中々弾いてくれないのに…君には弾いていた」
俺を慰めるためで特別な意味はない。
意味はない…はずなのに。
「彼は優しいけど、誰にもピアノは弾かない。それが答えだ。君がいたから五年間忙しいスケジュールを調整しながらも事務所にいてくれた」
俺の為?
「君が大好きなんだよ彼は…」
無性に泣きたくなった。
俺は何も気づいていなかったんだ。
ずっと言葉でも態度でも伝わっていたんじゃないか。
「彼も不器用でね…元から甘えん坊で、家族同然に慕う二人にはスキンシップが多い。その所為で他人からはおかしいとか、変だとか言われていたんだよ」
「聞きました…でも、そんなの!」
他人が決めるような事じゃないし。
普通ってなんだよ?
「奏音は天然だからね。好きな人には喜んで欲しいって尽くすタイプだ。けどその性格が仇となり前の事務所で酷い目に合ったんだ…だから他人と少し距離を取るべきだとも教えたんだけど」
社長が言い出した事だったんだ。
でもあながち間違いではない気がする。
「大切なモノができても少し距離を置くようにしないと、壊してしまうとも思ったんだろうけど…前々距離を置いてなかったけどね」
「え?」
「君に至っては距離なんてなかったよ。まぁ見るからに目の前で君達はいちゃつくからおじさんの僕には目が痛かった」
いちゃつくって…そんなことは。
「こないだも抱き合っていたじゃないか。てっきり二人は恋人だと思っていたんだけど」
「ちっ…違います!」
「だよね。今の君を見て納得したよ。でも周りからすれば恋人同士に見えるんだよね」
知らなかった。
第三者からそうみられていたのか?
え?
でも、奏音君は男で俺も男なのに!
社長に誤解をされてしまっているんじゃ。