第6章 少し息抜きに連れ出してやりたかった※義勇視点
治癒が終わったなら、さっさと桜と隊士を引き離してやりたくなった義勇。
一人一人、丁寧に声をかけ体に触れ治癒を施す桜と、桜に触れられる頬を染める隊士を見せられ義勇の我慢の限界はとうの昔に超えていた。
我慢しているのは、まだそういう仲でないこと、相手が怪我人だからだ。
だからこそ、治癒が終わったと同時にもう用はないと言わんばかりに桜の細い腕を掴み足早に病室を出た。
だけど、そんな義勇の気持ちなど知るよしもない桜の戸惑いがパタパタと走る足音から伝わってくる。
病室を出て廊下の中ほどでしびれをきらした桜に、ついに腕を振り払われた。
そう強く掴んではいなかったので案外簡単に振りほどかれてしまった。
目の前の少女は義勇と少しの距離をあけてこちらを見ていた。
その表情は文句を言いたそうだ。
「冨岡さんどうしたんですか?」
「………」
桜にしては珍しく不機嫌なまでに問い詰めるような口調だ。
なぜ早々に病室を出たのかわからないといった表情をしている。
ちゃんと挨拶したかったのに、と不満げに呟いたのが本音だろう。
自分がいろんな男から好意を寄せられているなんて思いもしないし、それに対して義勇が不快に思っていることなど桜は露ほども知らないのだろう。
自分のものでもないのに、湧いてくるこの感情に名前をつけるなら独占欲。
ただ、今の桜に言っても困らせるだけだし戸惑わせるだけだと思った義勇はそれを隠して無言を貫いた。
「あの、なにかありました?」
今度は探るような眼差しで問いかけられた。
べつに桜に対してなにかあるわけではないがーーいや、もう少し自覚してほしいというか意識してほしいというか。
桜に対してそう思っていると、
「もしかして、急ぎでお館様に呼ばれました?」
突拍子もない台詞に義勇は目を見開いた。