第10章 チャイムの鳴る前に
●リコ/伊月 side● 〜1-B教室〜
「でもね、完全に無駄だったわけでもないのよ?」
リコのその言葉に、伊月は再び視線を上げた。
「どういうことだ?」
「そもそもだけど、その“藤堂 天”って選手」
そこまで言うとリコは、ずっと逸らしていた視線を今度は伊月に真っすぐに向けた。
そして、
「世間に明かされている情報が、
あまりにも少なすぎるのよ」
と続けた。
リコのその、真剣そうな口調と言葉に伊月は、
「は?」
思ってもみなかった、という様子で口をポカーンと開けている。
「どうしたって成果が出ないわけよ!
だって、調べるもなにも
“調べるもの”が最初から無いんだもの」
呆気にとられている伊月には気にも留めず、リコは「やれやれ」と言った様子で肩をすくめ、そう豪語した。
「それ…で」
リコのその様子が、伊月が抱く不服をますます煽った。
「どこが“無駄だったわけでもない”んだ…?」
伊月はそう口にし、未だ釈然としない様子を露にした。
そんな伊月に対し、リコは再び視線を送った。
その眼差しは真剣そのものだった。
「伊月くん…ここまで言われてまだ気が付かないの?」
「え?」
「言ったでしょ?あまりにも“少なすぎる”の」
「はぁ…」
伊月はリコの言葉に、あまりピンと来ていない様子で相槌を打った。
“少なすぎる”…。
リコはそれがあたかも重要なことであるかのように、伊月に対して繰り返し言ってみせた。
「つまりは不自然なのよ」