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❁✿✾ 落 花 流 水 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第22章 落花流水 前



「さっき薬草屋さんで、逢瀬だって言ってたじゃないですか。それってつまりデートって事だと思うんですけど……だったら最初から教えてくれれば、支度の時に悩まなくて済んだのになって」
「【でえと】とは何だ」
「あ、そっか。えーと、恋仲同士で出掛けたりする事?」
「ほう?」

支度の時、散々悩んだ事を思い出しつつ告げた凪に対し、【でえと】の意味を認識した光秀が微かに双眸を眇めた。ぱくりとたれを零さぬよう気遣って団子を含んだ凪を他所に、男の口角が意地悪く持ち上がる。

「【でえと】かも分からず、そこまでめかし込んでくれたとは」
「だ、だから光秀さんの為にお化粧頑張った訳じゃないです…!出掛けるのに失礼な格好じゃ駄目かと思って…っ」
「何も言わず誘った甲斐があったというものだ」
「デートならデートって言ってください…!」

金色の眸が見透かすかの如く注がれ、凪が慌てて咀嚼した団子を嚥下した後、一度湯呑みを傾けてから首を振った。改めてデートかどうかも分からないにも関わらず、無駄に気合いを入れまくった、という事実を指摘されてしまえば、居た堪れなさが押し寄せるというものだ。何となく、光秀はそうする事を分かっていて、敢えて逢瀬に行くと告げなかったのではないか。そんな可能性すら感じ取った凪が眉根をぐっと顰めて言ってのけた。女の支度は時間がかかる。それはどの時代であっても共通なのである。

「考えておくとしよう」
「……その返答、絶対改善する気ないですよね」
「おや、俺の心の内が読めるとは、腕を上げたな凪」
「そんな風に笑ってたら、さすがに誰だって分かりますよっ」

おそらく改善する気が皆無な男がくすくすと愉しげに涼やかな笑いを溢した。小さく肩を揺らして笑う光秀の睫毛が微かに揺れる様は惚れた欲目でなくとも美しい。そんな感想を抱いたのは正面で光秀を捉えた凪だけでなく、周りもそうだったらしい。凪は預かり知らぬ事だが、光秀がそんな風に笑っている姿など、目にした事がないのだから当然と言えよう。
思わず半眼になり、相手を見つめると光秀が感心を覗かせて片眉を持ち上げた。いかにもわざとらしい返答へ噛み付けば、またひとつ涼しい笑いが返って来る。

(なんか、光秀さんに翻弄されてばっかだな)

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