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❁✿✾ 落 花 流 水 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第22章 落花流水 前



「お前が美味そうに頬張っている姿を見ている方が、自分で食うより満たされる」

それは、どうせ腹に入れば同じだから、という理由だけではない。光秀の言葉の意図を正しく汲み取った凪が不満そうなまま、それでも何処となく嬉しさを滲ませて視線を逸らす。

「じゃあ、あの…いただきます」
「ああ」

添えられていた黒文字を手に取り、団子を一つ刺して軽く持ち上げれば、とろりとしたたれがぽたりと皿へ滴った。ぱくりと口に含んだ瞬間、適度な甘さとしょっぱさが見事に混ざり合ったたれの味が口内に広がる。ほんのり暖かなそれは、作って間もない事を表しており、咀嚼の度に団子のしっとりとした柔らかさとたれの風味が溶け合って口の中を幸せで満たした。

「美味しい…っ」

思わず面持ちを綻ばせ、凪が堪らず感嘆を漏らす。控えた甘さは後味がすっきりしていて食べやすい。凪の嬉しそうな表情を正面から目にした光秀の視線が、日向のように和らいだ。団子のように柔らかそう、と言えば本人には文句を言われるだろうが、そんな凪の頬がそっと笑みと共に持ち上がる様は視界に入れているだけで心地よさを光秀へともたらす。摂津で目にした時よりも砕けた凪の姿は、ひと月という時間の流れを顕著に感じさせる。あの頃には、こうして凪が代え難い存在になるなど、思ってもいなかった。

「凄く美味しいです!摂津のも美味しかったけど、こっちも美味しい」
「気に入ったようで何よりだ」
「……デートならデートって最初に教えてくれれば良かったのに」
「……ん?」

口内のものを嚥下した後、凪はふと光秀を見て思い出したように口を開く。些か責めたような調子の音を捉え、男が首を軽く傾げた。
ころころと変わる凪の表情は幾ら視界に入れても飽きが来ない。じっと、黒々した眸に見つめられた男が言葉の意図を伺えば、凪はもうひとつの団子へ黒文字をそっと刺し、告げる。

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