第23章 食い違いの悲劇
レティシア
「…うっ…」
メル
「なっ…!」
オリヴィア
「レティシア…!」
反応が遅れてしまって魔法が間に合わないと思ったレティシアはオリヴィアを背中に庇い、腹部でナイフを受け止める。
流石にそれを予想していなかったメルは驚いて身体を引こうとするが、レティシアは彼女の後頭部と背中に腕を回してそのまま抱き締める
レティシア
「あんたらをちゃんと叱ってくれる奴も…こうしてくれる奴も居なかっただろ」
メル
「……っ…」
レティシア
「オリヴィアと施設の人だけだったんだよな。寂しかっただろ。…大人から暴力振るわれたら抵抗出来ないよな、痛てぇし苦しいし」
自身も実の母親に手を上げられていた過去を持つレティシアの言葉は実感が籠っていた。
でも、違ったのは…ユリス達のようにちゃんと助けてくれる人がいた事だ。彼等は助けを求めたのに利用された…彼等にとっての助けは、この世から自分を苦しめる者を亡くす事。
メルは同情ではなく実感が籠っているレティシアの言葉に涙を流し、レティシアの背中にしがみつく様に腕を回す
メル
「……ぅっ…」
レティシア
「良く…頑張ったな」
メル
「ごめ…っ…ごめん、なさい…っ…ごめんなさい…!」
レティシア
「確かにあんたらがやった事は許される事じゃない。…だが、あんたらは被害者でもある」
何度もメルの髪を優しく撫でていたレティシアに、立ち上がったヴィムが静かに声を掛ける
ヴィム
「……メルが刺したナイフ…何とかした方が良い、のでは」
それに、はっとしたようにレティシアからメルは身体を離して慌てるが当の本人は「あぁ…」と、まるで忘れていたかのような反応をする。
オリヴィア
「お嬢」
レティシア
「悪い悪い」
へらっと笑いながら振り向くレティシアにオリヴィアは掌を向ける
オリヴィア
「フラウフィ」
レティシアに刺さっていたナイフは、さらさらと溶けて彼女の傷は綺麗に塞がった。