第20章 彼女が知らない彼の真実
ずっと見ていたら、ぽんっと背中を優しく押された。
顔を上げるとイリーネの優しい微笑みがありまるで、話しかけておいでと言われている様だった。
フェリックスは少し緊張した面持ちで、チョコレートフォンデュを食べているレティシアに近付いた
フェリックス
「それ…美味しい?」
パーティーという少し砕けた場ではあるものの突然、挨拶もなく話し掛けてしまったのを、しまった…と思った。
だが、少女はフェリックスを見て
レティシア
「ええ、とても!」
満面の笑みを浮かべる少女は、少年の目に輝いて見えた。
レティシア
「貴方も食べる?…私、取ってきてあげます」
フェリックス
「え、いやっ」
レティシア
「?」
フェリックス
「一緒に行こう」
レティシア
「うん!」
フェリックスが、すっと手を差し出すとレティシアは愛らしい笑みを浮かべて彼の手を取った。
その微笑ましい姿を見ていた両家の夫人は目を一度合わせて幸せそうに笑んだ。
フェリックスはパーティーに参加するのが苦手だったものの、3歳の彼女がパーティーに参加してから、その場でしか会えない少女に会えるのが楽しみになっていた。
それなのに、少女のあの周りを幸せにする笑顔は…ある日から、ただ口角を上げるだけの…苦しげなものになっていた。
イリーネ
「あら…今日もいらしてないわね」
エヴァン
「嗚呼、体調不良…だそうだ」
会場を見回したシュヴァリエ夫婦はレティシアの姿が無い事に眉を下げて呟く。
体調不良が何度も続き…来たとしても前の様な笑顔は殆ど消えており、次第に夫婦は疑念を抱き始める。
疑念は持ったものの、レティシアは1度もパーティーに参加する事は無くなった。
フェリックスが9歳の時…両親はある仮説の元に計画を立て始めていた。勿論、その場にはフェリックスも参加する事になった。
エヴァン
「本当にそうだとしたら…信じられない」
イリーネ
「ええ、そうね。…もし、それが違ったのなら喜ぶ事よ。でも…本当にこの仮説が合っていたら、早く助けてあげるべきだわ。間違っていても…行動しないよりは良いわ」
眉を下げながら心配気に吐き出すイリーネは、本当にレティシアの事が気になっているようで。