第2章 #01 憧れた雄英
「もう大丈夫」
揺らぐ視界の中で、いつの間にか誰かが目の前に立っていた。
黒い霧の中から、大柄な人が出てきたのだ。
スーツを着ているようだが、顔をうまく見られない。
体を起こせない。
気付いたら、わたしの個性は止まっていた。
大きな彼の手がわたしの頭を撫でたのが分かった。
「辛かったね、天羽 イヴ。」
なんで、わたしの名前を知っているの?
彼は倒れているわたしの目の前に膝をついた。
「君は何も悪くない。ーーーー大丈夫、僕がいる」
その優しい声が、とても心地よかった。
安心した。
気付いたら、自然と涙が溢れていた。
頭に乗るその暖かな手だけが、今のわたしには救いだった。
「天羽、イヴ」
その彼の後ろから、青年の声が聞こえた気がした。
その青年はわたしの名前を呼び、血に濡れた頬を人差し指でそっと撫でてくれた。
顔は見えなかった。
その声色で、優しい気持ちが伝わってきた。
「お前を、助けてやる」
わたしはその言葉を最後に、意識を手放した。
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