第70章 ※ 番外編 これからもずっと
杏寿郎さんは静かに頷いた。
「伊黒がいたのは知ってた」
だから、私がキスした時も受け身だったんだな…。
情熱的な杏寿郎さんが、物静かなのが不思議だったけれど、私は納得した。
伊黒さんは寝転がったまま、杏寿郎さんの方に指先を向けた。
「杏寿郎」
「なんだ! 」
「俺がいる、いないは関係ないんだよ。小野がお前を愛してるって言ってる時は、愛してる証を見せてやれ! 」
杏寿郎さんは苦笑いする。
「他所の庭で、君に見られながら愛を囁くのは、どうかと思うぞ」
「俺は見たかったんだ」
伊黒さんは頬杖をついて言った。その様子が可愛らしくて、恥ずかしかったけれど、私は笑いが出てきた。
「もういいです、伊黒さん。私、酔っていました」
「嬉しかったよ。妹子ちゃん、二人きりなら、もっと応えられたんだが」
杏寿郎さんが言うと、伊黒さんは鋭く言う。
「ならば、今、俺の前でハッキリと愛を誓え。聞いてやる」
「別に君に誓わなくとも、俺は彼女を愛してる」
「早く言え」
何故か、杏寿郎さんは伊黒さんの前で私への愛を誓う流れになってしまった。
杏寿郎さんは、居住まいを直すと、真っ直ぐに私を見た。
出逢った時と同じ、真っ直ぐな瞳。綺麗な瞳は紅くて、吸い込まれてしまいそうになる。
「妹子ちゃん。君を愛してる。出逢った日から毎日、君をもっと好きになっていくんだ。
君への想いは、簡単に言葉では言い表す事ができないが、毎日、君を愛していると伝えていく」
「妹子ちゃん、伊黒、ここで言える俺の心からの想いは以上だ」
杏寿郎さんは樹上を見上げた。
「良かろう、杏寿郎。小野を幸せにしてやれ」
伊黒さんの顔から笑顔がこぼれる。
杏寿郎さんと私は、そんな伊黒さんを見て、笑い合った。
これからも、ずっと。私は杏寿郎さんを愛します。