第6章 第26章 月と太陽 1873ページより
1分後……
木刀が弾き飛ばされる甲高い音と、人が床に倒れる鈍い音が道場内に響き渡った。
「ご希望とあらば続けることは可能です。貴方が木刀を手に戻ってくるまでお待ちしますよ」
成人にも満たない華奢な少女が大の男である青年を床に貼り付け、喉元に木刀を突き付けている姿が道場にいる全員の目に映る。
その表情はここに自分たちを招き入れてくれた時の優しく穏やかなものではなく、師範代と呼ばれるに相応しい……元鬼殺隊柱の顔をした厳しく凛としたものだった。
「……参りました」
しかし青年の言葉を耳にした途端、先ほどまでの表情が嘘だったかのようにふわりと緩み慣れた手つきで木刀を腰に戻し、青年へ手を差し出した。
「お疲れ様でした。すみません、手を擦りむかせてしまいましたね。お薬を取ってくるので少々お待ち下さい。皆さんはその間柔軟をして体を解しておいて下さいませ。師範、少しこの場を離れますが直ぐに戻りますので……」
「あぁ、構わない。柔軟くらいならば俺も見ていてやれるからな」
唯一先ほどのに怯えを見せていない杏寿郎はニコリと微笑み、ペコと頭を下げて母屋へ小走りで向かっていった背中を見送った。