マヨネーズから油を抜いたらどうなりますか(土方夢)
第1章 仮の居場所
土方
局長は今回の件の上への報告で不在だった。代わりに、副長の土方十四郎がの報告を待っていた。
「……ただいま戻りました」
「事のあらましは山崎から聞いている。……よく頑張ったな」
鬼と恐れられながらも、この人は優しい。非情になれる優しさも持ち合わせている人だ。その土方が目元を柔らかく緩ませてを見つめる。
だが、は姿勢を正して床に視線を逸らす。
「いえ……」
「……ここには俺とおまえしかいねェ。人払いも済ませてある。いくら適任とはいえ、女の身であるおまえに今回のようなキツい潜入捜査を宛てちまってすまなかった」
「私は真選組に入隊する時点で女という性別を捨てました。身軽さと運動神経を買われた事は嬉しく思います」
「……」
土方と何度となく行ってきたこのやり取りだが、その度に土方の顔が辛そうに歪むのを見るのがには辛い。
女という性別を隠す為、無表情と寡黙という『演技』を貫き通す。必然と他の隊士との交流も無くなるものだとは思っていた。
だが、近藤を慕って集ったという始まりを持つ真選組は、近藤に限らず情に厚い者達ばかりだった。の演技を個性として捉え、皆がを仲間として見てくれていた。
の性別を把握しているのは近藤と土方だけだが、近藤は偶に本気での性別を忘れ、風呂に誘う事があった。その度に、土方が助け舟をさり気なく出してくれたのだが。
土方のそんなさり気ない優しさと気遣いに、女を捨てたと言いながらも、はほのかな恋心を土方に抱くのは仕方の無い事なのかもしれない。
床に視線を逸らしたままのへと伸ばしかけた土方の手が止まり、何事もなかったように戻っていくのをは知らない。