第10章 12月
「今週もお疲れ様でした~!ボーナスも出たし!かんぱーい!」
「お疲れでした~!」
お互いアルコールの入ったグラスを合わせる。
忘年会での大して薄くないビール用のグラスとは違う軽い音に、気分が上がる。
「はぁ~。今の仕事、明日起きたらぜーーーんぶ終わってて、早く年末の休みに入らないかな。
で、年明けてまた穏やかに仕事して定時で帰る日々を過ごしたい……」
会社じゃないから遠慮なく本音が溢れる。
「賛成~。あと2週間も仕事したくな~い。
そういえば、奈々は年末年始ってどうするの?」
「実家に帰る予定」
「そっか。帰りづらかったりしない?」
「なんで?」
「えーー、婚約破棄?」
「あぁ、腫れ物を扱うように扱ってくれるんじゃないかな?」
「ほんと、奈々って意外と強いよね」
「そうかな?」
「いや、私が同じ立場だったら、うーん……」
「さおりはこんなことにはならないから大丈夫だよ」
ほんとうに。
きっとさおりにはこんなアホみたいなことは起きない。
「わっかんないじゃん」
「まぁね~。そういえば婚活は?」
「今忙しくてなかなか連絡取れないし、相手も忙しいって会えないから進展なし」
「今の時期はしょうがないよね」
「奈々は?アキノリくん、会ったりしてる?」
「結局あれから一回だけ連絡とったけど、なんか忙しいっぽいよ。
てかMRこそ今の時期忙しいよね、きっと」
「やっぱり?ほぼ毎日病院の忘年会って言ってた」
「大変だよね~」
「けどうちの会社もじゃん。
部長と課長たちはともかく、黒尾さんたちもほぼ毎日でしょ?そんなの絶対ヤダわ~」
「ね。けどさおりも近い将来そうなるんじゃない?」
「私はそうなる前に結婚します!
だからとりあえず、さっさと年明けさせて!早く婚活再開しなきゃ~」
「それがいいよ」
「年明けたらまた一緒に合コン行こうね♩」
「私は~、大丈夫カナぁ?」
「はぁ?何言ってるの?!
来年こそは一緒に幸せになるの!」
…………言う?か?
「うーーん……」
もう少し考えてみる。
たぶん今、口元が緩んでる。