第30章 反魂人形
任務を終えて、七海と酒を交わす。
今回の任務の大筋は【死者への未練を利用した呪詛師『もどき』の成敗】ってところ。
とある通販サイトで売られていた『反魂人形』という『死んだ赤子を蘇らせる人形』の真相を突き止めて処理すること。それが今回七海に与えられた任務だった。
死者の蘇生など、通常起こりえないこと。
それがもし本当に起こったのだとすれば、そこには強大な呪いが存在している。
(事実……皆実は『呪いの王』の力で蘇ったわけだしね)
放置すれば、最悪一大事。
でも蓋を開けてみれば、呪いの王など一切関与しない……呪詛師『もどき』が起こした些細な事件だった。
赤子の死に囚われた母親からその死骸を受け取って、その死骸の皮を使って呪骸を作り、あたかも『赤子が蘇った』かのように見せたインチキ。
そのインチキをやってのけた呪術師もまた、呪骸に身体を乗っ取られた被呪者だった。……まあコッチは自業自得だけど。
その母親が腕に抱いていた『赤子』を祓い、呪いに身体ごと蝕まれていた呪詛師『もどき』を祓った。それが今回の任務の全貌。
報告書に記すなら、こんな感じだろう。
終わってみればたいしたことのない任務。七海だけで担当しても、何の問題もなかっただろう。
けれど、最近の任務の中でも群を抜いて、気の晴れない仕事だった。
あの母親からすれば、未練を惑わす『呪い』が『救世主』で、仮初の幸せを取り上げた僕ら『呪術師』が『呪い』なのだろう。
心の傷を最小限にするため尽力しても限界がある。
人の未練だけは、他人の力でどうこうできるものじゃない。
それは……大切な人の死を目の当たりにしてる僕が、一番よく分かっている。
「慣れはしても気持ちよくはないよね。酔いたくなる」