第15章 自分のために⑤
『ん、なんだよ。棘』
狗巻先輩が真希先輩の肩をトントンと叩く。
『ツナマヨ』
『ああ。……じゃあ私あっち行ってるから。パンダも行くぞ』
『了解』
真希先輩もパンダ先輩も、狗巻先輩の言いたいことが分かったらしく、狗巻先輩にスマホを渡した。
『おい、そこのバカも席外しとけよ』
「耳守ってるから大丈夫っしょ」
『盗み聞きはよくないぞ、悟』
パンダ先輩に言われて、「へいへい」と五条先生は寝室の方に行った。
そこまでされれば、今から狗巻先輩が何をしようとしてるのか分かって。
私は画面越しに狗巻先輩と向かい合った。
『皆実、話して大丈夫?』
狗巻先輩の言葉が私に届く。
声にすらならない小さな負の感情が、私の身体を優しくつついた。
私を呪ってしまってないか心配して、そう問いかける狗巻先輩に、私は笑いかけた。
「はい、大丈夫ですよ」
狗巻先輩は2人きりの時、こうして私に言葉をくれる。
たぶん、私が狗巻先輩のおにぎり語を理解できないから、そうしてくれてるんだと思う。
初めて話したのは、真希先輩との稽古でぶっ飛ばされまくった後、1人で反省してた時に。
私が本当に呪言を無効化するのか試すように。
突っ立ってる私に『皆実、お座り』って言ってきた。
唖然として突っ立ってる私に『本当に大丈夫なんだ』って狗巻先輩の方が驚いてたっけ。
『皆実は、ケガしてない?』
狗巻先輩は心配そうだ。
たぶん狗巻先輩にも伏黒くんの写真が送られてきてたんだろう。
「はい。ピンピンしてます」
『そっか』
狗巻先輩は薄く笑う。
いつもはおにぎり語を話してるから分かりにくいけど、狗巻先輩の声はとっても綺麗で、聞いてて落ち着く。