第24章 sprout 佐久早
「株式会社MSBYの管理栄養士、橘と申します。お忙しい中、お時間頂きありがとうございます」
切長の二重瞼に高い鼻梁、マスク越しでも美人なのが伝わってくる
そしてシワ一つない白衣
余計なお世話だと侑には言ったけれど、初対面にも関わらず若干彼女を意識している自分がいた
「佐久早さんは、キッチリ三食たべていますか?」
「はい」
「忙しいとどうしても、品数が減ってしまうと思いますが、パンだけ、麺だけといった食事にならないように心がけてください」
「はい」
「とは言っても、三食全ては難しいと思うので、それをうちの食堂や寮での食事で賄えたらと思います。出来るだけ美味しく、身体にも良いものを提供したいと考えていますが、好きな食べ物や何かリクエストはありますか?」
「…梅干し」
俺がそう答えると、彼女は少し笑って
「可愛い」
と呟く
そしてすぐに
「あっ、えっと!その…ごめんなさい…」
と耳の辺りを紅くしながら謝る
「いえ」
「…佐久早さんが梅干し好きって…なんか可愛くて」
「はぁ…」
可愛いと言われて、悪い気はしなかった
「身体は食べたもので出来ています、無理ない範囲で気をつけてください。また定期的にお話しお伺いしますので…それと、次までに何か梅干しを使った料理考えておきますね」
そう言って彼女は微笑んだ
普段気にもとめなかった食堂や、寮での夕食も彼女が工夫を凝らして献立を考えてくれていたのだと考えると、急に感慨深くなった
その日の午後の練習が始まった
サーブ練してると侑が近づいてきて
「なぁーなぁー別嬪さんやったやろ?オミオミ、どない?!」
と馴れ馴れしく肩を組んでくる
「…やめろ」
「えらい歯切れ悪いなぁ〜あ、もしかしてオミオミ…」
「…黙れ」
「はーん…」
侑はニヤニヤ笑いながら
「臣くん、橘さんは下の名前歩ちゃんって言うねんて…あとなぁ歳は俺らの2個上」
と、聞いてもいないのにペラペラ喋る
「…るさい」
とは口では言ったものの、有益な情報をくれたコイツに若干感謝した
と同時にあの短時間で、これだけプライベートにつっこめる侑を羨ましくも妬ましくも思った