第1章 unlucky men
Nside
喉の奥に指を突っかける。
吐く。
また突っかける。
吐く。
しばらくその作業を繰り返した後、俺はようやく、顔を上げた。
目にうっすら涙が溜まっているのが鏡を見ずとも分かる。トイレの便器に吐き戻された、ハンバーガーの残骸をこれ以上見ていたくなくて、『強』のボタンを押した。勢いよく水が流れた。
——この水みたいに、俺の悩みも、綺麗さっぱり無くなったらいいのにね。
もしくは、俺自身か。
誰もいないことを足音で確認すると、そっとドアを開ける。思わず小さなため息が漏れた。
出来るだけここから遠ざかりたくて、さっさとトイレから出た。
汚れた手は、嫌だったけれどズボンのポケットで拭いた。
1秒でも早くここから立ち去りたかったから。
鏡とすれ違いざまに見た自分の顔は、何故なのか良く分からないけれど、貧乏くさく痩せこけて、ひどく青白いように思えた。
きっと照明のせい。
そう思い込んだ。