第3章 とある竜の君の一日
「何故、僕が最近眠れていないとわかったんだ?」
「キミのことは観察していたからね。授業中は上の空だったし、体育の時も早々に課題を終わらせて日陰で休んでいた。たまに眠たそうに目を擦っていれば、誰だって気づくさ。瞬きする回数もいつもより多かったからね」
この男に見られていたのは気づいていたが、眠れていないことまで見抜かれていたとは思わなかった。
容姿端麗に加え、鋭い観察眼と細かな気遣い……なるほど、ヴィルが欲しがる訳だ。
「では、遠慮なくもらっておこう。菓子の礼という訳ではないが、シェーンハイトはお前をご所望らしい」
「シェーンハイト……?」
「気をつけることだな。綺麗な華には毒があるぞ」
ヒントまで与えてやったのにいまいち合致しないのか、顎に手を当てて考え込んでいた。
しかし、ハッと何か思い出したかのように顔を上げた。
「ムシュー好奇心が帰って来る前に私は帰らせて頂くよ!巻き込まれるのは御免だからね!」
どうやらシェーンハイトではなく、リリアのお茶会を思い出したようだ。
来た時同様、バタバタと忙しく帰って行った。少しは落ち着いて行動できないのかあいつは。
マレウスはルークが去ったあと、彼が置いていったマンゴームースを一口食べてみた。甘酸っぱくてさっぱりしている。
本当に安眠効果があるのかは不明だが、今夜はよく眠れる気がした。
「ディアソムニアの素質があったら引き込んでやったのに……残念だ」
胸の中から最後の空気を吐き出すように、呟いた。