第1章 呼吸
雲ひとつない満点の夜空に流星群が降る夜、所用で出ていた街からの帰り道で、鱗滝左近次は産まれたばかりの赤子を見つけた。
辺りを見回したがすでに人の気配はない。
質の良い布に包まれてはいるが赤子は無造作に置かれていた。
(捨て子か…?)
すやすやと眠る赤子を抱き上げ、ふと違和感を感じ見ると、赤子は全集中の呼吸をしていた。
【全集中常中】
鍛錬を積んだ者でも簡単にできるものではない。
このようなことがあるものなのかと戸惑いはしたが、このまま置いていくわけにもいかず、赤子を連れて帰り育てることにした。
まるで今日の夜空と同じような、濃藍に星を散りばめたような不思議な瞳をもつ赤子に、星波(ほなみ)と名付けた。