第21章 唐突に現れたディソナンス【京都校交流会―団体戦―〜呪具】
「【かきやりし その黒髪の 筋ごとに うち臥すほどは 面影ぞ立つ】」
呪霊の背後に黒い髪の人影が現れた。しなだれかかるようにして寄り添うと、長い黒髪が呪霊の身体へ絡みつき、拘束する。
その背後から、傷を負っていることを感じさせない動きで、真希が游雲で鋭く突きを放つ。その攻撃を、呪霊は黒髪の拘束を引きちぎって躱した。
「《よく動けますね》」
迫った真希を、呪霊は右腕で打ち払う。
さらに樹木の蔓で真希の身体を絡め取り、首に巻きついて縛り上げた。その反動で游雲が川へ落ちる。
「真希さん!」
詞織がすぐに術式を発動させようとするが、樹木の波に押し流され、木をへし折って倒れ込んだ。
「詞織! くそっ!」
浅い呼吸を繰り返しながらも、伏黒は力の入らない腕を無理やり持ち上げる。腹から伸びる芽は「ナハナハッ」と耳障りな声を上げていた。
それを意識して無視し、血が出るほどに奥歯を噛み締める。
呪力を振り絞れ……たとえ腹が裂けても!
自分はみんなとは違う。守る人間を選ぶ。
その分、自分が一番背負っていない。
へし折れた木の傍らでは、傷だらけの身体を引きずりながら詞織が立ち上がる。
――『とっても不本意だけど、詞織のことを任せるわ。世界で二番目……あたしの次に、この世で詞織を愛しているあなたにね』
脳裏で詩音の声が蘇った。
たとえこの身が死んでも、詞織だけは死なせるわけにはいかない!
詩音に頼まれたからではない。
それは伏黒の中にある純粋な感情だった。