第9章 グラン・ギニョールの演目【呪胎戴天】
けれど、違う。それは過信だった。
自分はこんなにも弱い。無力だ。
宿儺が領域展開を繰り広げる。【伏魔(ふくま)御廚子(みづし)】という名の、宿儺の生得領域。
牛の頭蓋骨を積み上げた、おぞましい伏魔殿だ。
宿儺の領域展開の効果なのか。涙を堪える詩音の目の前で、宿儺が呪霊を縦に刻む。
まるで、プロの料理人が肉や魚を捌くような鮮やかさ。
そして、ついでとばかりに、胸を貫いた。引き抜いた彼の手には、ミイラ化した人間の指が握られている。
両面宿儺の指だ。強力な呪力のブースターとも言える特級呪物を持っていたとは。
『……フン、他愛ない。この程度で俺と同じ特級という括りか。笑わせてくれる……なぁ?』
跡形もなく消し飛んだ呪霊を見下ろして呟いたかと思えば、宿儺はグルリとこちらを振り返った。
『あぁ、お前も特級だったか。虫ケラ相手にいいようにされるとは……特級という括りも、存外いい加減だな』
ククッと喉を震わせる宿儺に、詩音は言い返すことができず、ただ唇を引き結んで俯く。
足音が近づいてきた。宿儺がこちらへ来ているようだ。
詩音は身構え、頭の中で様々な詠唱を反芻した。
『こ……【この言葉は兇悪を挫き、罪過を祓う――急々如律――……】』
『"黙れ"』
ビクッと言葉を噤む。そんな詩音を、宿儺は嘲笑うように見下ろした。