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花火 ー呪術廻戦ー

第15章 差異


「ええ。ですからみょうじさん、」

それは、灰原が死んでから。
そして、みょうじ先輩が死ぬ前から。
思っていたのに、彼女に告げなかったこと。


「あなたは、呪術界(この世界)で生きるべきじゃない」


あの頃から、知っていたのだ。
彼女はこの世界に向いていなかったことを。

それに気付いたのはただの偶然だった。

変わり者ばかりの呪術師達の中で、唯一まともな人。
どこか抜けているけれど、面倒見よく、後輩の七海や灰原とも積極的に関わろうとし、彼等が彼女の同級生達から理不尽に絡まれれば、それを諌めようとしてくれた。

あんな人も呪術師にいるのかと。
まともそうに見えるということが、七海の視線を引き付けた。
合同任務で、呪霊を祓おうとする彼女に注視したのは、まともそうに見える彼女も、やはり呪術師としてイカれているのだろうということを、ただなんの気はなしに確認したかっただけだ。

恐らく、なんの躊躇いすら抱かず、呪霊を祓うだろうと確信していたはずの彼女の手は、その瞬間、震えていた。

見間違えであったかと思ったそれが、見間違いじゃないと分かったのは、祓い続ける彼女の瞳に、恐怖とも懺悔とも言える感情の色がのったのを、見てしまったせいだ。
一瞬で隠されたそれを見てしまった七海は、気付いてしまった。

普通に見えていたんじゃない。
彼女は、普通なんだということに。

恐らく、呪霊といえど、生き物に見えるそれに、普通に恐怖し、それを祓う(殺す)ことに、抵抗と罪悪感を覚える。
普通の感性を持った、普通の人。

知っていたのにその事実を誰にも告げなかったのは、それでも、彼女は笑っていつもの輪の中にいたからだ。彼女も、その周りも、誰もが違和感なく、普通の学生と何ら変わりなく、楽しそうに笑っていたから。


イカれてなくても、呪術師をすることは可能なのだと。


思い込ませたのは、彼自身も、楽しいと感じていたからだ。明るい同級生と高め合い、理不尽な先輩に絡まれ、尊敬する先輩に指導してもらえる。そんな何でもないような日常が。(…否、理不尽な先輩だけは違うが)

手放し難いと、思った。

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