第14章 高専
「だよね!まぁなまえは僕らと同級生だし、今更学校なんて通えないんだけどね」
「…あ、え、そうなの?」
「うん。まぁとにかく今後のことは僕に任せて!決まるまでゆっくり過ごしなよ」
ここに慣れるまで、と。
言われて、『慣れる』という言葉に違和感を感じる。
慣れる…慣れて、どうするんだろうと、思ったのだ。今までの学生生活を忘れて、これからこの11年後の世界に慣れなくてはいけないのだろうか。
それは、そうだろう。だってもう、戻れないんだから。戻れないなら、この世界に慣れるしかない。
…もどれ、ない?
「なまえ?」
ハッと、顔を上げる。
顔を覗き込むように見る、五条悟と、どこか心配そうな様子を隠しきれていない家入硝子。
この時感じたのは、違和感だったのだろうか。
「昨日の今日で、まだ混乱してるんじゃないか?」
心配そうな音を声に滲ませる家入に、なまえは取り繕ったような笑みを顔に乗せる。
「いや、全然、大丈夫…です」
「なまえはこういう時、大丈夫しか言わないからね」
「家に戻る?もう高専での用事も終わったっしょ?」
「…待て五条。家って、なまえ、今どこに住んでる?」
「僕んとこ」
あ、これはよくないやつだ。
見開いた家入の目に、そう思ったが、今更どうしようもない。提案に乗った時は、あまり深く考えられなかったが、硝子の反応を見ると、恋人や夫婦でもない男女2人が一つ屋根の下、ということは、やはりあまり外聞よろしくないのではと思って。
普段は気怠げな家入の瞳は、次の瞬間責めるように五条を睨みつけた。
「どういうこと。訳の分からない状態のなまえに付け込んだっていうなら許さないよ」
「オマエに許しを乞うことなんて一つもないね」
「待った待った待った!!いやあのね、硝子、さん?私行く当てがなくて、困ってたら、悟が住んでもいいって提案してくれたというか、」
「さん付なんてしなくていいから。あのさ、なまえ。五条に人間として普通の配慮があれば、なまえと同性の私に連絡するはずだよ」
なるほど、その手があったのかと、言われて気付く。だが、その時の私にはそういったことを考える余裕もなく、恐らく悟もそうだったのではないかと、責められる悟に対して申し訳なく感じて。