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大正鬼殺譚 〜炎柱の継子〜

第5章 変化





それで、杏寿郎。

お前、嫁など考えた事もないと言うが…


誰か、心に想う者は居ないのか。



槇寿郎は、
抑えてきた親心が爆発したのか、

杏寿郎の嫁の事が気掛かりでならない様子だ。



…話が…戻ってしまった…。



父上、本当に俺は、
そういったことには疎く…


槇寿郎はなおも食い下がる。


己の全てをかけて、
守りたいという相手は居ないか?


というのも、槇寿郎は、
美玖の事を特別に
可愛がっていた杏寿郎を知っている。

杏寿郎と美玖がこのまま夫婦となり、
暮らして行けたらいい、と考えていた。


他所の宅から引き取った娘を
危ない道へと引き入れてしまったという、

後ろめたい気持ちもあっての事だ。




自身の全てをかけて…
守りたい相手…


父上の言葉が脳内を反芻する。

俺の、守るべき者は、


不意に美玖の姿が思い浮かぶ…。



…っ!
いや、そんな事は…!
美玖は俺の継子で、
家族のように過ごしてきたのだ。

そうだ…そんな筈は…



顔を少し赤く染めて
何やら自問自答を始める杏寿郎を

槇寿郎は黙って見ていた。



……こいつ、自覚がないのか。

これは、少し時間がかかるやもしれん。
よもやよもやだな。



あー…杏寿郎、
ひとまず、嫁の件はおいて、

明日より、正式に煉獄家の主として、

これまで以上に頑張ってくれ。


俺も、寝てばかりはいられんな。

少し身体を鍛え直して、
育手として、鬼殺隊を支えていこうと思っている。



お前はその分、
自身の鍛錬と任務に集中してくれ。



っ…はいっ!父上!
ありがとうございます!



父親に深く頭を下げ、

杏寿郎は部屋を出て行った。



槇寿郎は、亡き妻の遺影に語りかける。



瑠火…

杏寿郎は、昔の俺にそっくりだ…。

だが、いくらなんでも、
あそこまで鈍くはなかったぞ…。


苦労しそうだ、と一人項垂れるが…

このように、息子の事で頭を悩ませる事に、
幸せのようなものを感じていた。


止まっていた槇寿郎の…

煉獄家の時が、動き出したのだった。



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