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【鬼滅の刃】予定調和【宇髄天元】

第1章 嚆矢濫觴




相手にされず、興味がそがれたのか、
その犬はそのまま、どこかへ行ってしまった。

犬がいなくなったのを確認してから
私は地面へと下ろされる。

私はそれまでの恐怖で声も出ない。
荒い息も整わず、お礼を言おうとするが、できない。
でも、声が出ないから、という理由だけじゃない。

それはこの人が、宇髄サンだったからだ。

よりによって、何でこの人。
何でこんな所で…。
何で今…。
ひどく、気まずい…


「大丈夫か」


静かに声をかけられ、私はぎこちなく頷いた。

…大丈夫。
大丈夫だった。
助かった。

そう思った瞬間、
ひどく安心して、膝から力が抜けた。
建物に背を預けて、ずるずるとしゃがみ込む。
震える両膝に額を乗せた。


「おい!」


慌てて私の横に膝をつく宇髄サン。


「ごめんなさい…大丈夫…」


私は全身の震えを押さえるように、
自分の両腕を抱いた。


「子どもの頃に、野犬に追いかけられて…
噛みつかれた事があって…。
それから犬はもう…」


さっきのは野犬じゃない。
可愛い子だった。でも、
トラウマはどんな犬でも、あの時の恐怖を呼び戻す。


「あぁ…怖かった…」


私はつい、心の声を口に出してしまう。
呆然と一点を見つめていた。
しばらくそうしていたが、
震えがどうにもおさまらない。
腰が抜けたのか、立ち上がる事もできそうにない。
隣にしゃがみ込んだままの宇髄サンも、
困ったように動けないでいる。
申し訳なくて、私は少し笑ってみせた。


「あ、宇髄サン、ごめんなさい。
私、ちょっと動けそうもないので、
もう行って下さいね?
いつまでもすみません」


私が言うと、宇髄サンは目を見開く。


「助けていただいてありがと…」


お礼を言おうとすると、
突然、後頭部に大きなてを添えられ
ぐっと引き寄せられた。
辿り着いたのは、宇髄サンの胸板。
ぎゅっと抱きしめられて、


「泣いてる女放って帰るヤローがどこにいんだよ」


と、苦しそうに言った。


「え?私、泣いてま……す?」


泣いてません、と言いたかったのに、
途中で気づいた。

私、泣いてる。


「何で…」

「そんだけ怖かったんだろ?
泣きながら笑ってんじゃねぇよ」

「いえ、泣くつもりなんて…」


微塵もない。
何てみっともないんだろう私は。
面倒な女だ。

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