第5章 呼吸
ザッ、ザッ
近く足音に慌てて振り返る。それは鱗滝さんのものであった。
「…よく頑張った、美雲。」
鱗滝さんが傘に入れてくれる。頭をポンポンと撫でられた。
錆兎に頭を撫でられた感覚が蘇る。家に帰る道を進みながら後ろを振り返る。
そこには2つに割れた岩だけがあった。錆兎も真菰も姿は見えなかった。根拠はなかったが2人にはもう会えない気がして、寂しくなった。
温かい夕食を囲みながら、雨の中鍛錬をするなど風邪を引いたらどうするなどと注意された。怒られたものの、そこには鱗滝さんの優しさも感じる。
にこにことする美雲をみて鱗滝はため息をつく。
温かな時間だった。しかし、美雲は岩を切った。それは、旅立ちを意味する。剣士に向けての旅立ち。
ここを去っていった多くの子どもたちのことを思う。この旅立ちが、この世からの旅立ちとなることがないように強く願う。
もう失いたくない。美雲の無事を祈るばかりだった。
夕食のとき最終選別に関して、再度説明をうける。
そして、狐の面を貰った。鱗滝さんが念を込めて手作りしてくれた"厄除の面"というものらしい。錆兎や真菰の面を思い出す。
私を思って作られた面に愛着が湧く。嬉しくて顔に当てて見せたりする。
出発は明日。
最終選別を前に、温かな時間を大切に過ごした。