第18章 築く -音-
冨岡への思いに気付いてからも、日常は特には変わらない。柱の仕事を学び、鬼殺の任務に赴く。それが日常だ。
そんな殺伐とした日常の中でも、食事の時だけは緊張の糸が解ける。
屋敷の中で冨岡と食事を摂る。
会話をするわけでもないそのひとときがたまらなく幸せだった。自分の作った食事を黙々と食べる冨岡。いつも残さず食べてくれて、手を合わせてくれる。彼と変わらない日常を送れること、当たり前ではない。
(伊黒さんの言ってたこと、今なら分かるなぁ。
失いたくないから、余計に大切だと思える。)
正直冨岡への感情に気付いた後、本当にそうなのかと自分を疑う事もあった。それでも日々を重ねるうちに、やはり間違いないと確信する。
いつだって冨岡のことを考えてしまう。こんなにも愛おしい。
「…ご馳走様でした。」
冨岡は手を合わせている。
「お茶いれますね。」
「ああ。」
食器を下げ、湯のみと急須を持って居間に戻る。
冨岡へのお茶を淹れて差し出す。冨岡は湯のみを持ち、茶を啜った。
「…久方ぶりの暇だろう。屋敷のことはいい。ゆっくり過ごせ。」
「はい。冨岡さんもお休みですよね。何されるんですか?」
「決めていない。」
暇を共に過ごすつもりはないのだなと少し寂しくなる。しかし、思いが通じあってほしいなどと高望みはしない。
望むのは変わらない日常だけだ。
「じゃあ、片付けが思ったら少し町へ行ってきます。」
「ああ。」
2人で静かにお茶を飲み、いつものタイミングで湯のみを下げた。冨岡は腰を上げ、自室へ戻っていった。
食器類を片付け、着物に着替える。万が一のことも考え、刀を竹刀袋に入れ背負う。冨岡の部屋の前でひと声かければ、扉が開く。
「…ゆっくりして来い。」
「はい。行って参ります。」
お辞儀をして屋敷を後にした。