第16章 読めない心
「…はい!」
冨岡なりに気遣ってくれていたことがヒシヒシと伝わり、美雲の涙はもう収まりがつかなかった。
ぽろぽろと溢れる涙を手で拭いながら返事をする。
「…言っただろう。面と向かって話せ。」
涙を拭いながら俯いていた美雲の頭にポンと冨岡の手が乗った。
突然のことに美雲は顔を上げた。少し眉を下げた冨岡と目が合う。
「やっとこっちを見た。急に視線を逸らされるとこちらも心配になる。…もう不安なことはないか。」
添えられた手から温もりを感じる。その温かさに美雲のこころも解されていくようだった。
「 …私のこと、お嫌いですか?」
美雲の問いに、冨岡は初めて表情を崩した。驚いたように目を丸くしている。
その顔を見て美雲もハッと我に変える。
「あああ!!すみませんっ!!!つい!!あ、あの、忘れてください…。」
恥ずかしくて真っ赤になる。泣いているうち高ぶった感情で、不用意な質問をしてしまった。顔から火が出そうだ。
「…嫌いじゃない。」
冨岡はそう言うと美雲の頭をぽんぽんと撫で、スッと手を離した。
「…任務へ行くぞ。」
冨岡はまた廊下を進み始めた。
ドキドキドキドキ__________
進んでいく冨岡の背中を見つめる。ぽんぽんと撫でられた感触がまだ残っていた。離れていく手を引き止めたかった。自分の感情に戸惑う。美雲の胸がうるさく拍動を続け、キュッとこころを掴まれた感覚に襲われる。
"嫌いじゃない"
冨岡の声がこだまする。
玄関から私を呼ぶ声がした。その優しい声の元へ、足を走らせる。
抱えていたモヤモヤなどもう何処にもなかった。