第16章 読めない心
美雲を待つことなく、どんどん進んでいく冨岡。
別に優しくして貰えるなんて思っていなかったが、その冷ややかな態度にどうしても気持ちが沈んでしまう。
悶々と廊下を進む。すると突然美雲は何かにドンとぶつかる。
「へぶッ」
ぶつかったのは急に立ち止まった冨岡の背中だった。
「イタタ…申し訳ありません。どうされましたか?」
冨岡の視線の先は炊事場だった。
「…あれは。」
昼食の残りを見ているようだった。冨岡も食べると思ったが無視をされ、残ってしまった1人分だ。
「昼食です。捨てるのも勿体ないですし、後で私が食べようかと。片付いてないの気になりますか?申し訳ありませんでした、次から気をつけます。」
「昼食、食べなかったのか?」
冨岡がちらりと美雲を見た。目が合ってしまい、思わず逸らす。
「いえ。…2人分作ってしまったので。」
「…俺の分か?」
「え、ええ。お声掛けしましたが、返事を頂けなかったので要らないものだと…。」
「…寝ていた。」
冨岡の一言にキョトンとする。あれは無視では無かったのだ。
考えてみれば夜通し任務へ出て、帰ってきたのは遠に朝を迎えた頃だった。休息を取るのは当たり前だ。
「すまなかった。任務が終わったら頂く。」
謝罪を述べる冨岡は、やはり涼しい顔のままだった。しかし、視線はまっすぐと美雲に向けられている。
その視線と交わると、疎外感に耐えていた美雲のこころから不安が溢れ出る。