第1章 ちゃぷん
「この風船。何も入ってないね。」
は自分の魔法で包んだ物を見上げながら呟く。
魔法は左薬指の噴出孔から持続してケムリを出し移動できるようになっており。
包んだ球体が風船に、ケムリがヒモに見えなくもない。
「入ってるだろ?」
一緒に歩いていた心臓マスクを被った男、心が指差しながら応える。
の魔法の中には心の魔法でバラバラになった魔法使いが
赤い水の中で背骨をくねらせぱちゃぱちゃ泳ぐように暴れている。
「昔は入ってなかったのッ。」
「あー…夢の話か。」
夢。ここで言う夢とは の過去の事。
脳死を免れるため雇われた魔法使いによって見せられていた二十数年間の夢は、
にとって現実と等しかった。
その為、夢を懐かしむ の様子は奇妙に見えるがいつもの事だ。
「遊園地でもらった風船を見て言ってしまったの。
私が知っていた風船はこれの事だったんだね。」
「ふぅん。謎が解けてよかったじゃねぇか。」
心が車の後部座席のドアを開き、 がありがとうと言い乗り込む。
「お疲れ様です さん。先輩も。」
車の助手席から後ろを向いた青いマスクの大…女の子の能井が に向かい声をかける。
その間に心が後部座席を閉め、運転席へ乗り込む。
「 さん。久しぶりの魔法はどうだった?」
「うーん…自分の事ながら不思議に感じちゃってる。」
「脳の負担考えて、夢ん中は敢えて魔法が無い世界を作ってたらしいから無理も無いな。」
「アイツああ見えて さんを大事にしてるからなあ…。」
「シートベルトやったか?」
「うん。」
「帰るぞ。」
「ハイッ。」
エンジンをかけレバーとサイドブレーキを動かし車は進み始める。
が風船を見ると、中の魔法使いは疲れ果てたのか動かなくなっていた。
「………」
は覚えのある喪失感を無視して車外の移り変わる景色を眺めた。
………