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悪魔様の言うとおり

第1章 意地悪悪魔さま


あれから。
数年前の、あの日から。
ひとりの少女と悪魔は、時を越えて共にいる。
いつしか惹かれあい、愛し合い。
今、ここにいる。







「ルゥは、食べないの?」
「え」
「おなか、すかないの?」



ふと手を止めて顔を上げる朧からは、不安と心配の匂いがする。
そんな朧に、ルシエルは。
にこりと笑って目を細めるのだ。


「気にするな。朧が満足するなら、俺も満足だ」
「ルゥ」


悪魔の食料は、人の血肉。
人間のそれとは、異なる。



「………あたしの、あげるのに」
「駄目だ、朧」
「早く取ってよ、ルゥ。あたしずっとずっとルゥと一緒にいたい。言ったじゃない、叶えてくれる、って。命取ってルゥ」
「朧」

あやすように朧の隣へと座り直し、ルシエルは朧の頭へと、キスをする。


「『死』は終わりだ、始まりじゃない」
「……」
「『死』からは何も生まれない。消えるんだ」
「でも……っ」
「大丈夫。俺のことなら心配するな」
「………ルゥはずっと、あたしのせいで空腹なんでしょ?」

「………」


「血、は?」
「え」
「あたしの、血、は、少しは食欲、満たしてくれる?」


「………」



驚いたように固まって。
だけどルシエルの喉が鳴ったのを、朧は見逃さない。


「満たしてくれる、んだ」



安心したように笑って。
キッチンへと向かう朧を目で追うルシエル。
ナイフを取り出した朧をみて、やっと我に返ったルシエルは慌ててキッチンへと駆け寄った。


「朧!!」
「ルゥのためならなんでもするの!!朧はルゥのお嫁さんなんでしょ?ルゥにだけ我慢させるのは嫌なの!!」

右手首を掴んで怒るルシエルに、朧も負けじと反抗する。
徐々に耐えきれなかった瞳から涙が溢れ出しても、それでも決して朧はナイフを離さない。

「朧……」
「………っ」
「わかった、ナイフを下ろせ、朧」
「ルゥ」

深くため息ついて。
降参、そう、呟きながら朧の頬に口付けするルシエルに、朧も手の力を抜いた。
瞬間。
カラン、て、ナイフが流しに落ちる。


「………いいんだな?」
「いい」
「………すっごく、痛いぞ?」

「ぇ」



「肌に突き刺すんだ、当たり前だろう?」

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