第23章 そうして穏やかに殺すのだ
虚圏に着いて、隊首羽織を脱ぎ捨てる。
「愛美、着替え終えたら私の部屋へ来なさい」
賢い子だ、何故呼び出されるのか分かっているのだろう。微笑みの裏に、少し怯えの色が見える。さらりと、髪紐を失い支えを失った白銀の髪が揺れる。死神の死覇装にそれはよく映えるが、この子は白い衣装の方が良く似合うだろう。
「ああ、やはり似合っているね」
白い死覇装に、白殺しの帯。この子が元来持ち得る儚い印象がぐっと増す。
「さて、何か弁明はあるかい?」
椅子に腰掛ける私の前に立ち、笑みを貼り付けたまま、弁明はないとこの子は言う。双極の丘で護廷十三隊の隊長格が集った時、この子は私を庇って戦った。---そのように、誰しもが思っただろう。けれど、この子は私を守る為にその力を振るった訳ではない。自らが貫いた、朽木白哉を救う為に、この子は戦った。周りから不審に思われないように、至極器用に、戦いながら。少しずつ朽木白哉との距離を詰め、そして、薄桃色の髪紐を彼に"返す"という名目で手渡した。あの髪紐に、この子が自分の霊圧を濃縮して封じていたことなど、私が気づかないとでも思ったのだろうか。
「…怒ってはるんです?」
困ったように微笑みながら、この子は私の顔色を伺う。笑った方が色男なん増しますよ、なんて戯言を言って、私の両頬を摘んで弄ぶ。この私にこんなことをやってのけられる者は、後にも先にもこの子だけだろう。やめなさいと言えば、素直に手を引いた。
「怒ってはいないよ。私は君のそういう甘さも好きだからね」
私とて、この子のその甘さに惚れた口だ。誰彼構わず優しくするのは如何なものかと思えど、そういうところがこの子のらしさであり、市丸愛美という死神の根幹にあるものなのだ。怒ってはいない。愛美が誰を助けようと、私が天に立つという未来は変わらないのだから。死期が遅まっただけの話だ。寧ろ彼らには私が神になるその瞬間を目に焼き付けてもらわねばならないため、最初からあの場で彼らを殺める気はなかった。そう、怒ってはいない。
「……あ、そういうことですの、」
「………」
「もー、分かりにくうてたまらんわ」