第12章 Hole in my heart
乱菊をゆっくりと横抱き、お酒の匂いにやられたらしい十番隊長さんの手を首に回させて背負う。
「僕も手伝おう」
いつもと変わらぬ人の良い微笑みを浮かべた藍染隊長が私の背から十番隊長サンを奪い、さあ行こうと私に言って、瞬歩で先に十番隊舎へ行ってしまった。
「あらら、行ってもうた。案外せっかちやねぇ、五番隊長サンは」
なんて言いながら、本当は嫌な予感しかしない。けれど、行かないという選択肢はない。威圧ある視線を感じてそちらを向くと、静かに私を見据える総隊長。周りに気づかれないようにほんの少しだけ頷いて、十番隊舎へと向かう。
「彼女を此処に置きなさい、愛美」
隊首室の隊首椅子には既に十番隊長サンが座らされていて、藍染隊長の言う通り私も近くのソファに乱菊を寝かせる。刹那、ぐいっと腕を引っ張られて、壁に押し付けられた。長身の彼をそおっと見上げるも、逆光で顔は見えない。
「藍染隊長…?」
「酒で身体が火照ってしまってね。君で冷まさせてくれ」
眼鏡をかしゃんと投げ捨て、髪を鬱陶しそうに掻き上げた彼が、死覇装を開けさせ私に口づける。口づけながらも慣れた手つきで私の死覇装を脱がせる彼に、私は申し分程度に抵抗した。
「……ん、………ああ…そうか、此処は十番隊舎だったね。スリルがあって中々良いものだ」
―――意地の悪い人。愉しそうにクツリと嗤いながら鎖骨を舌でなぞる彼が、酷く恨めしい。
「…藍染隊長っ……こんな…っ……所じゃ、あきまへん…っ」
十番隊長サンと乱菊がもし起きでもしてしまったら。考えただけでゾッとする。
「愛美、君が声を我慢しさえすれば何も問題ない」
(この鬼畜…っ!)
「私を愉しませてくれ」
こうなったら最後、肉食動物のように目をギラつかせる藍染隊長に何を言ってもどうにもならないことを私は身をもって知っている。手の甲を口元に押さえ付け、ただ必死に声を我慢するしかない。
(頼むから起きんといて、)
どうか、起きないで。
Hole in my heart
(三日月だけがそれを見る)