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徒花まみれの心臓【BLEACH】

第8章 愛に着地することは難しい


















お前は何も分かってへん。お前は何も知らへん。お前は天才言われてもまだまだ子供なんや、そんなに一人で頑張らんでええ。


「……」


パチリと目が覚めて体を起こす。時計を確認すると、時刻は4時。こんなに早く起きてもすることがなくて困るのだけれど、二度寝することも難しそうだ。いつものように死覇装を着て、“三”の数字が染め通された隊長羽織を着る。お気に入りだったあのリボンは昨日捨ててしまったので、今日は結わずに垂らしたままにする。下を向く度にサラリと髪の毛が顔にかかって鬱陶しい。よくもまあ、平子隊長は常時結わずにいられたものだ。春先の冷える空気を吸い込んで、一息。


あの頃に比べると、自分も随分と髪が伸びたものだ。伸ばしている理由なんてあまりにも子供で、単純で、馬鹿馬鹿しい理由。それでもそれに拘るのは私がまだあの人を忘れたくないからかもしれない。


「わざわざ髪を伸ばさんでも、あの人ンこと忘れるわけあらへんのにね」


忘れたくないから…なんて嘘。だって私は忘れない、何があっても絶対に忘れない。私が髪を伸ばすのは、ただあの人を真似てるだけ。あの人のように綺麗な金髪ではない、念入りに手入れのされた細い髪でもない。それでも真似たかった。ほんの少しだけ、憧れのあの人に近づけるような気がしたから。


「……隊長…」


―――早く目覚めてしまったのは他ならない、今日は平子隊長がいなくなった日だからだ。










「総隊長サン、失礼しますで~」


時刻は漸く7時になり、私は総隊長の元を訪れる。総隊長が私を呼んでいるのだと、一番隊の平隊員がわざわざ伝えに来てくれた時には首を傾げた。地獄蝶を使えばいいのに、どうして使わなかったんだろう。


「ほんで、何の御用です?」


「白々しい。…言わずとも分かっておろう。今日が何の日か」


「………」


「市丸、おぬしにとって今日は特別な日じゃ。……今日は非番にしておいた故、自由にするが良い」


その言葉に顔を上げ、総隊長を見た。毎年この日が来ても総隊長は何も言わなかったのに…どうして今年はそこまでしてくれるのか。目で訴えると、総隊長は髭を撫でながら重々しく口を開いた。


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