第17章 ダウト
先ほどとは違いあまりキレのない走りで緑谷に突っ込んでいけば、腕を振りかざした緑谷の拳がもろに轟へと一発入る。予想外の展開に急激に熱くなっていく会場に、一方の私はどんどんと身体がが冷えていく。
なんだかわからないけれど、二人の雰囲気が異様だ。
まるで轟は本気で緑谷を殺しにかかっているようで、緑谷も興奮状態のようでまともには見えない。
確かに彼は無茶苦茶をやっているわけではないのはわかるが、それでも自ら激痛へと飛び込んでいくまともではない彼の行動に、全身の血の気が引いた。
緑谷の紫色に腫れ上がった指先はポタポタと血が滴り、向いてはいけない方向へとねじ曲がっていて。
(…すごく、怖い…嫌だ…)
ボロボロになっていく緑谷を見ていれば今度は足が震え始めるのを感じ、なんとか周りにこの動揺を悟られないよう息を潜める。
そのまま突っ込んでいく緑谷は轟に再び重い一発を入れ何かを叫び始める。
観客の応援とマイク先生の実況でまるでなにを言っているか聞こえないが、それでも彼らの顔を見ればなんとなく察する。
体中の毛が一本一本逆立つような緊張に包まれれば、轟の妙な姿に気づく。
仁王立ちだった彼の左からチリチリと赤い炎が焚付けば、一気に会場を包み込むほどの熱風が観客を襲った。
「熱きたー!」
『轟くんッ…』
なんとか目を凝らし、真っ赤に燃え上がる炎の中心に視線をやる。一体緑谷の何が決め手なったのかは私にはわからない、しかし確実に彼が轟に炎を使わせたのは事実。
また何かを話したかと思えば、すぐさま熱風と風圧に包まれる会場に目も開けていられないほどの威力が私たちを襲う。
「まじかよおい!?」
「どうなってますの!?」
混乱でざわめく会場、そして次第に落ち着いていく風圧と熱風。
そして砂埃の中なんとか緑谷と轟が確認できた。
「…緑谷くん、場外。…よって轟くん三回戦進出ッ!」
ミッドナイトの声が響けば再び湧き立つ観客に、私は気づかれないよう席を立ち去った。