第1章 夜 道
深夜3時。
辺りは真っ暗で、歩くのもはばかれる時間に、似つかわしくない人の姿。しかもその子は右足だけ裸足の女の子で、俺はつい足を止めた。
「ねぇ、」
声を掛けると、一瞬ビクッとしてこっちを向いた。
「…なんですか」
「危ないよ。今何時だと思ってんの」
言いながら近付くと、彼女の大きい瞳に自分が映って、念の為に帽子を深く被り直した。
「別に、私の勝手じゃないですか…」
関わってほしくないのかプイッとそっぽを向く。
素直じゃねぇなぁ…
「とりあえず家帰んなよ」
「……」
次は無視ですか…。
はぁ、本当にこの女…
「どうなっても知らねぇから」
言って、背を向けた途端、さっきまでツーンとしてた彼女からは想像つかないくらいのか細い声で「帰る家なんてない」と聞こえた。
「…え?」
「…だから、帰れ、なんて言わないで」
さっきとは別人。
瞳に涙を溜めて、溢れないように唇をギュッと噛み締めて、けどしっかり俺を信用していないかのように睨む。
人助けとか嫌じゃないけど、別にしたくない。
面倒なことに巻き込まれんのとか御免だし、てかそもそも目の前のこいつを何にも知らない。明日も朝から撮影だし、レコーディングだし、
ありえない…
「じゃあ、さ…」
ありえないんだよ…。
「家、来る?」
一番ビックリしたのは目の前で固まってる彼女じゃなくて、自分自身だった。
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