• テキストサイズ

あまりに脆い今日を 抱き締めて手放す

第1章  夜 道





深夜3時。

辺りは真っ暗で、歩くのもはばかれる時間に、似つかわしくない人の姿。しかもその子は右足だけ裸足の女の子で、俺はつい足を止めた。



「ねぇ、」

声を掛けると、一瞬ビクッとしてこっちを向いた。


「…なんですか」

「危ないよ。今何時だと思ってんの」


言いながら近付くと、彼女の大きい瞳に自分が映って、念の為に帽子を深く被り直した。


「別に、私の勝手じゃないですか…」


関わってほしくないのかプイッとそっぽを向く。




素直じゃねぇなぁ…


「とりあえず家帰んなよ」

「……」


次は無視ですか…。

はぁ、本当にこの女…


「どうなっても知らねぇから」


言って、背を向けた途端、さっきまでツーンとしてた彼女からは想像つかないくらいのか細い声で「帰る家なんてない」と聞こえた。



「…え?」

「…だから、帰れ、なんて言わないで」



さっきとは別人。

瞳に涙を溜めて、溢れないように唇をギュッと噛み締めて、けどしっかり俺を信用していないかのように睨む。


人助けとか嫌じゃないけど、別にしたくない。

面倒なことに巻き込まれんのとか御免だし、てかそもそも目の前のこいつを何にも知らない。明日も朝から撮影だし、レコーディングだし、


ありえない…



「じゃあ、さ…」



ありえないんだよ…。



「家、来る?」




一番ビックリしたのは目の前で固まってる彼女じゃなくて、自分自身だった。



.
/ 5ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp