第5章 跋―振り駒狂い—
「それに、野戦の最中でもない。城内で呑気に眠っていられる時にしかゆっくりお前を抱けないだろう。俺の体力などお前は気にするな。そんな気を回すのなら夜だけでなく昼も抱くぞ」
「それでは何も出来なくなってしまいます」
「そういう事だ。俺は夜だけで我慢をしている。夜まで我慢しろなどと言うな」
確かに謙信は幼い頃から身体を鍛えている。
体力は比べ物にならないし、食事もよく摂る。
酒の量は気になるが明くる日に酒を残す事は無く、政務に勤しみ城内も城下も忙しく視察してまわっているという。
それでも睡眠が短いのはどうしても気になるのだ。
「……私が寝すぎなのでしょうか?」
首を傾げて思い悩むに謙信が苦笑する。
「俺の体力に付き合わせているのだ。お前が疲れ果てるのは当然だろう。遠乗りでも戦でも、大の男でさえ俺に「もう少し待て」と言うのだから、閨でお前がくたびれるのは当然だ。それに、この腕の中で蕩け切って眠りに落ちたお前を抱いているのも至福だぞ」
「閨では、一騎討ですものね」
特に考えるでもなく言うと謙信が低く声を立てて笑った。
「確かに、そうだな。だとしたら俺の連勝だ。一騎討で負かされるわけにはいかないな」
はいつも謙信のペースに翻弄されてしまう。
強く抱きしめられ、「俺の物だ」と愛されるのは嬉しいと思うが、謙信の言葉に少し対抗意識を覚えてしまう。
謙信に勝負事を挑みたいとは思わないが、「どうせお前の負けだ」と言われては少し反抗してみたくなるのだ。
「では謙信様、今夜は私が先手ではどうでしょう?」
の言葉に謙信は不思議な顔をする。
「どういうことだ?」
「ですから、私に謙信様がいつも言う「可愛がる」というのをさせてください」
「……お前がどう可愛がるのだ?」
の思惑が分からず微かに戸惑う謙信に新鮮な気持ちになる。
「交代するだけです」
戸惑う謙信の身体を押し返し、「仰向けになってください」と態勢を替えることに成功すると、不意を突かれて思わぬ展開になった事に謙信がやや困った顔をする。
「たまには私が好きにしても良いでしょう?」
は率直に要望を言えば概ね謙信が受け入れてくれるというのを知っている。
威圧的で我儘ではあるが、根本的な部分で望まれれば受け入れる度量があるのだ。