第6章 和泉守兼定 優しい兄ではいられない・:*+.
いろはが息を切らして戻ったときには、時間遡行軍は消えていて、二振りの笑顔があった。
「よかった…。」
その場に力なく倒れ込むいろはを兼定が抱きしめる。
「顕現で力を使い果たしたな?今のお前の力だと俺を完全に顕現させるのはまだ無理だ。…まぁいつかまたお前のもとで鬼狩りをしてやってもいい。」
そう言い残し彼は刀の姿に戻った。
「おいいろは!なに無茶してんだ!心配したんだぞ!」
「ごめんなさい…でも私は私のやり方で兼さんを守りたかったの。」
その言葉を聞いてはっとした。
「そうだな…いろはが守ってくれなかったら、正直やばかった。あんたはもう俺に守られてるだけの赤児じゃねぇんだな…。いろははもう立派な審神者だよ。」
「っ…兼さん私…」
ぽつぽつ…
頭上に冷たい滴が落ちてくる。
「こりゃ強くなるな。とりあえずどっかで雨宿りするぞ!」
俺はいろはの手を握り走り出し、小さな宿の軒先で足を止める。
「どのみち今のいろはの力じゃ、時空移転装置も使えねぇし、今夜はここに泊まるか?」
いろははこくっと頷く。
俺はふといろはの着物が濡れて肌着が透けている事に気づき、心臓がドキドキと脈を打つ。
「っ!これ羽織っとけ。ちょっと汚れちまってるけど気にすんな。」
そう言って水色の羽織をかける。
「ありがとう」とほほえむいろは。
すっかり身体が冷え切ったいろはの為に女将に湯殿の準備を頼んだ。
俺はいろはの帰りを待ちながらそわそわしていた。
まだまだ子供だと思っていたいろはがこんなにも魅力的な女に成長していた。
いつからだ?なんで気付かなかった?
…いや。気づかないふりをしてたんだな。
あの時だって…あいつじゃなく、本当は俺自身の気持ちを牽制しようとしてたんだ。
恋仲になる自信はないけど、他の刀剣よりも近い存在でいたくて"兄"っていう卑怯な場所に留まっていた。
なのに…今はその関係を壊したいと思っている。
「俺は本当自分勝手だな…」
ぼそっと呟いた。
※湯殿…お風呂