第8章 決意
「サク…。」
甘い香が焚かれた部屋。
布団の上にしどけない姿で横たわったサクを、オレは組み敷いている。
艶やかな紅をさした唇からは、悩ましげな吐息。
潤んだ瞳がオレを見上げ、強請るようにサクの腕がオレの首へと回される。
普段とは違う、女の色香を漂わせたサクに、オレはただただ溺れて行った。
カーテンを開けっぱなしの窓から光が差し込み、眩しさに目が覚める。
「………またか…。」
目に手を当てて、はぁ、と重いため息をつく。
あの日から繰り返し見る夢。
あのとき媚薬で動けなくなった淫らなサクの姿を見て、強く抱きたいと思った。
すぐにかき消した醜い思い。
それを成し遂げるように、オレは夢で繰り返しサクを抱いていた。
そのせいで近頃サクに会いづらい。
後輩としてでも傍にいたい、と涙ながらに言ってくれたサクに、まだ告白したせいで避けられているとは思わせたくないのだが…。
バッチリ反応してしまった下半身を持て余しながら、オレはこの夢を恨めしく思うのだった。
任務終わり、遅くなったので弁当でも買って帰ろうと商店街のよく行く弁当屋へと向かっていると、昔先輩に連れて行かれた酒場の女が歩いてきた。
名前も教えられた気がするが、思い出せない。
女はオレに気づくと、綺麗に化粧を施した顔に笑みを作り近づいてきた。
「久しぶりね、カカシ。
最近全然店に来てくれないじゃない。」
女はオレの手を取ると、腕を絡め体を密着させてきた。
「……」
この女を抱けばあの夢を忘れられるだろうか……。
しかし頭の中でサクの笑顔がチラついて、到底そんな気にはなれなかった。
「離してよ……」
「やーだ」
そっと手を振り払おうとすると、女は戯れるようにさらに腕にひっついてきた。
そのとき……。
「カカシ先輩……?」
聞き覚えのある声がして頭を上げると、ビニール袋を片手に持ったサクが、こちらを茫然と見つめていた。
一瞬の静けさの後、サクが手に持っていたビニール袋を落とし、すごい速度で踵を返し駆けだす。
「サク!!」
今度は女の腕を思い切り振り払い、サクの落とした袋を拾い上げその後を追った。