第8章 もう一度
アンナサイド
今日も仕事を終え、帰り道を急ぐ。
以前は、あのこけた場所に差し掛かると、必ずと言っていいほど立ち尽くしてその場を眺めていた。
でもこの半年はそれすらもやめて、自然にその場を通り過ぎるほどになっている。
今日は、ただなんとなく…
といった感情に包まれて、久々に立ち止まってみた。
「ここから始まったんだよね…」
懐かしさがこみ上げた。
突然出会って
一緒に過ごして
彼の闇に触れて
支えあって
恋人になって
守ってもらって…
「かかし…」
久々に呼ぶ愛しい人の名前。
名前を呼んだだけで、あの優しい笑顔と、暖かい大きな手の感覚がよみがえった。
私、もう泣いてないよ。
今前みたいに頑張ってる、ちゃんと前向いてるよ。
あぁこれ以上思い出すと、自分自身がまた耐えられなくなってしまうかもしれない…
もうやめようと思い、駆け出した。
「ぅわっ!!」
足元がぬかるみにはまったように感じたと思ったら、体はすでに前のめりに倒れていく途中だった。
こける…!
スローモーションに感じるその光景に、もうすぐ痛むであろう自身の体の心配をした。
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「いったぁ‥‥」
背中とお尻が鈍くいたい…
そう思った瞬間、がばっと強く抱きしめられた。
この匂いと感触…忘れるわけがない…
「…かかし…」
私に覆いかぶさり、ただただ力強く抱きしめる愛しい人に、これまで我慢してきた感情がいっきにあふれた。
ゆっくりと離れ、ようやくその愛しい人を見つめた時、泣きながらもやっと笑って言えた。
「こんなとこにいたんだ…やっと見つけたよ」