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【YOI】僕達のif【男主&勇利】

第2章 迷い


打ち合わせの為に大阪のとあるリンクに到着した純は、そこで久々の面々に挨拶をした後で、お世辞にも好意的とは程遠い視線が自分に向けられているのを感じた。
「よくもまあ、ノコノコと俺達の前に顔を見せられたもんやな、上林」
声の主に向き直ると、純は無表情に会釈を返す。
「今日は宮永さんと、夏のショーの打ち合わせに来ました。よろしくお願いします」
「…フン、あの時尻尾巻いて逃げ出したお前の事を、俺は許した訳やないからな」
「ちょ、白田(しろた)くん。言い過ぎやって」
「お前らかて、陰で散々こいつの事、勝生の傍で偉そうにしとるて言うてるやないか」
白田と呼ばれた男は、周囲が控えめに止めるのも構わず、更に純に言葉をぶつけてくる。
今回のリンクは純が故障する前まで世話になっていた所で、現役選手やそれ以外のスケーターも含めて特に顔馴染みが多い。
先日の宮永の忠告も含めて、半ば諦観気味にそれらを受け止めていた純だったが、不意に何処からか諌める声がした。
「やめないか。純くんが、あの時どれだけ酷い怪我をしたか知ってるだろう」
「高嶺(たかみね)さん…!」
宮永と共に現れたのは、かつて純と同じく再起不能レベルの大怪我を負いながらも見事復活し、世界に名を轟かせたトップスケーターの1人、高嶺であった。
数々のタイトルを獲得した後一度現役を引退した彼は、紆余曲折を経て現在はアイスダンスに転向、シングル時代に培ったスケーティングとエッジワークを武器に、着々と進化を遂げつつある。
「怪我からの復帰は、言うほど簡単じゃないし、誰かに言われて決められるものでもない。だから、俺には純くんの気持ちが判る」
「…それでも、こいつは何食わぬ顔で復帰した後にアッサリ辞めてったんや!」
高嶺の言葉に何人かが気まずそうに顔を背ける中、ただ1人白田だけは、純に指を突きつけると更に声を荒げた。
「ええんです、高嶺さん。彼らの言う通り、肝心な時に逃げ出して、僕がみんなに迷惑掛けたんは事実ですから」
「純くん…」
「…けっ」
自分を気遣うように見つめている高嶺に頭を下げた純は、白田達から背を向けると高嶺の隣に立つ宮永へと歩を進めた。
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